サロマ湖は日本で3番目に大きい湖。露天風呂から眺める景色は言うまでもなくすばらしい。特筆すべきは夕日の美しさ。冬にはオホーツク海を埋めつくす流氷を見ることができる。
この宿は湖のほとりにある。小僧っ子が泊まる宿ではない。人生60有余年、傷つき疲れた戦士が時を忘れ、休息を得る場所なのだ。午後3時、宿に入り我が部屋の窓辺に座すがいい。今時、北の冬であれば、鈍色に滲むサロマを眺められるだろう。あるいは降りしきる雪に視界を遮られ、朧に霞む湖畔を凝視するやもしれぬ。ああ、鷲も白鳥も見えぬではないか…。急ぐことはなかろう。鳥たちは雪の中、塒に戻っただけのこと。サロマは沈黙のまま暮れてゆく。…朝は日の出とともに目覚めよ。晴れの日なれば、ただ「あぁー…」と、その景色に息を呑むだけだ。一日宿から出ず、持ち来たった愛飲のバーボンを含みながら、眼前のサロマのたおやかな移ろいを一日眺めるのだ。それだけでいい、私の心は癒される。