■checkポイント■
≫≫≫ 30秒で海に出られる
≫≫≫ 夕食は父と息子の和洋コラボ
≫≫≫ 地元の食材を豊富に使用
≫≫≫ 味噌も醤油も手づくりでヘルシー
オススメしたい方
【夫婦、カップル、一人旅】
「オーベルジュ」という宿泊形態をご存知でしょうか?
日本ではあまり馴染みのないものかもしれませんが、ヨーロッパでは割と一般的な、郊外にある宿泊施設を備えたレストランのことです。
千葉・鴨川に2019年11月オープンの「泊まれるレストラン 波太(なぶと)オルビス」に一足先に行ってきました。
31年間、鴨川・小湊の国道沿いで寿司屋を営んできた上村恵司さんご夫妻が、満を持してオープンしました。
メインストリートから一歩中に入った波太海岸は、釣り客がちらほらいるくらいの非常に静かな海岸。大正時代には、「西の波切に東の波太」と言われて西洋画家たちに注目される写生地だったといいます。
オルビスの立つ場所は、元造船所だったところ。
右手には仁右衛門島が、左手には鴨川松島といわれる大小7つの島々が浮かぶ風光明媚な場所です。
「オルビスとは、『天体、天球、星』という意味。周辺に明かりが少ないので、星や天の川がきれいに見えます。さらにオルビスには『輪、円環』という意味もあるので、縁と縁をつないでいくという意味も込めてこの名前にしました」と話すのは、上村夫妻のご長男でシェフの上村航平さん。ニューオータニで洋食の料理人として修業し、オルビス開業とともに鴨川に戻ってきました。
地元食材を使った父と息子の和洋コラボ
この宿の特徴の一つは地元の食材にこだわった料理です。
東京の江戸前寿司店で修行し、鴨川の寿司店を30年以上切り盛りしてきた大将と、都心のホテルで修業したシェフ(航平さん)による和洋のコラボレーション。
クラフトビールや房総の地酒を楽しみながら、コース料理をいただきます。
鴨川で獲れた伊勢海老や生マグロの中トロ、高梨牧場の上総和牛、勝浦なるかポークなど地元の食材が味わえます。生のマグロは、千葉県の銚子・勝浦は、和歌山に次ぐ水揚げ量を誇るそうですよ。
アミューズは航平シェフによる「洋」のお皿。
「七里豆」は、「豆を煎ると七里先まで香りが届く」という言い伝えのある幻の枝豆。甘味があって芳潤な味わいをタルトでいただきます。サツマイモの新品種「シルクスイート」はニョッキで出されます。
前菜は、庭で獲れた天然のみかんを器にした、房州名物のなめろう。
平政は自家製味噌でふっくら味噌焼きに。
酢〆鰯は、本来は寿司屋のまかないとして出していたそうですが、びっくりするくらいおいしくて、お酒がどんどん進みます。
次に出てきたのは、航平シェフによる伊勢海老のブイヤベース。
濃厚な出汁を楽しんでもらうよう、スープ仕立てになっています。
メインは、上総和牛のローストと、
大将が目の前で握ってくれる握り寿司。
みそや醤油などは全て手作りで、出汁は野菜からとったベジブロス。
「化学調味料は使わず、体に染み込むようなやさしい味わいを目指しています」と航平シェフ。
3室だけの宿ならではの極上サービス。仲の良いご家族の家に招かれ、素晴らしい食材でおもてなしを受けている。そんな錯覚を受けました。
アメニティまできめ細やかな居心地のいい客室
「オーベルジュ」というと、宿泊施設はおまけのような施設が多いですが、ここは建物を一から新築し、内装にもこだわっています。
レストランの先、宿泊者専用エリアに3室が用意されています。
廊下の窓は、本物の船についていたというアンティークの窓。骨董好きの大将が浅草の骨董屋さんで買ってきたというコレクションです。
蚤の市や骨董市が好きな大将。
「船をイメージした宿をつくりたいんだ」と骨董屋さんに伝えたところ、倉庫の奥から出してきてくれたそうです。おそらく、横浜あたりの船のものではないか、とのこと。
客室はシンプルで、ベッドサイドのライトや電灯のスイッチも船の中をイメージしたシックなものでまとめています。
フワフワのタオルは今治タオル。
ドライヤーは、美容師をしているシェフの妹さんが推薦するプロ御用達。
シャンプーやコンディショナー、ボディソープに至るまでいいものをセレクトしていて、非常に居心地のよい滞在ができます。
真っ白いバスタブはヨーロッパ製で、海景を眺めることができて、気持ちがいい! 温泉ではありませんが、シャワージェルを入れてリッチなバスタイムを過ごせます。
ベッドはマットの上にムアツマットレスパッドを重ねたベッド。
「腰が痛くて仰向けに寝られなかったお客様から『朝までぐっすり眠れた』という感想をいただいたり、好評」だそうです。
翌朝、いつもより早く目が覚めました。窓に目をやると、太平洋から昇る朝日が見えました。そう、ここは朝日が望める宿なんです。
身支度をして、浜辺に出ると、釣り人が2人、海に糸を垂れていました。静かな漁村の風景。聴こえるのはただ波の音ばかり。寄せては返す波音を聴きながら、浜辺を散歩する時間はなんて贅沢なのでしょう。
海風を感じて、波音を聴くだけでも海洋療法(タラソテラピー)の効果があると聞いたことがありますが、朝のほんの20分くらい海辺を散歩しただけで、日頃のストレスがスパッと抜けて、元気が蘇ってきたような気がします。
レストランには、フレッシュジュースや自家製ハム、焼き立てパンの朝食が待っています。
波の音をB G Mに、贅沢な朝食の時間です。
1泊2日の贅沢なリセット。
海のオーベルジュで素敵なひと時を過ごしませんか?
写真と文・野添ちかこ(温泉と宿のライター/旅行作家)