■checkポイント■
≫≫≫ 館主が打つ十割そば
≫≫≫ 竹の器も手作り
≫≫≫ 朝食には焼きたてパン
≫≫≫ 初夏には蛍が飛ぶ姿も見られる
≫≫≫ 大倉喜八郎さんの別荘だったところ!
オススメしたい方
【夫婦、カップル、そば好きな人】
箱根にはかつて、政財界や文人がこぞって別荘を構えていた名残りが随所に残っていますが、ここ紫雲荘もそんな別荘跡地に建つ宿。
箱根湯本駅から箱根登山鉄道で一つ上に上がっただけの渓谷沿いの一等地にあり、川沿いの景観も見事です。
この宿があった場所は、大倉喜八郎さんの別荘があった場所。鹿鳴館や帝国劇場、帝国ホテルなどの事業を興し、一代にして大財閥を築いた実業家です。
大倉喜八郎さんは幼名を「鶴吉」、雅号が「鶴彦」、晩年には「鶴翁」と名乗っていたことから、現オーナーがこの宿を始めるときに、「鶴井の宿」と名付けたそうです。
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大岩をくりぬいたトンネルが宿への入口《写真:野添ちかこ》
玄関は、かつて、朱舜水が、驪山に勝ると命名した、塔ノ沢の名所・勝驪山(しょうりんざん)という大岩をくりぬいて作った斬新な造り。
異空間へと誘ってくれるかのようです。
宿に着いたら、すぐにお風呂に直行!
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早川の瀬音を聴きながら湯浴みができます。大浴場は時間によって男女入れ替え《写真:野添ちかこ》
大浴場の露天風呂は早川を望む川沿いにあります。
さすが、大倉男爵の別荘だった場所で、川向かいも全てこの宿の敷地。開放的な湯浴みが楽しめます。
温泉は無色透明、弱アルカリ性の単純温泉で非常に柔らかくて、優しい肌触り。
1日70トンの湯量があるそうです。
風呂はこのほか、無料で入れる貸切風呂「男爵の湯」と、橋を渡って行った先にある有料貸切風呂の(3000円)「観山」の2カ所。
男爵も入った優雅な貸切風呂
地下にある「男爵の湯」の湯船はその昔、大倉喜八郎さんの別荘だった時には3つあったそうですが、現在は2つ。
小田急ロマンスカー2015年冬のポスターの撮影地になったそうですが、そのコピーが、「先輩は、ひそかに芸者を呼んだ。」
バブルの頃のポスターだとばかり思っていましたが、数年前のポスターでした。
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フロントで鍵を借りて入る貸切風呂「男爵の湯」。予約制なので早めに時間を予約しよう 《写真:野添ちかこ》
芸者を呼ぶのにぴったりの宿というよりは、熟年夫婦向けの落ち着いた宿だと思います。
貸切風呂は、枕木に竹が使われていて、趣きがあります。ロビーにも竹で手作りされたものがいろいろ置かれていましたが、ここの館主は、竹を使った細工に凝っているようです。
その一つが、湯上がりのビール。
湯上がりにラウンジでくつろいでいると、
「ビールはいかがでしょうか?」
スタッフが、キンキンに冷えたビールを入れてくれました。
なんと、竹でできたビアカップです。
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竹のビアカップで飲む湯上がりビールの味は格別 《写真:野添ちかこ》
ほかでは見たことのないサービス。これにはノックアウトされました。
今月は新生姜のそば
さらに、料理人でもある館主自ら、毎日そばを打ち、夕食でふるまっているのも特徴的です。
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70歳を超えて2キロの玉を打つ鈴木社長 《写真:野添ちかこ》
つなぎなしの十割そば。
「もう18年にわたって、そば打ちを続けてきている」(館主の鈴木角雄さん)そうです。
“食器は料理のきもの”と言ったのは、美食家である北大路魯山人。
彼は陶磁器や漆器を自ら作ったといいますが、この宿の館主も料理を引き立てるお皿を竹で手作りしています。
前菜はこんな竹の器。
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竹の器が料理を引き立てる 《写真:野添ちかこ》
器の中にはタケノコの味噌漬けやゴーヤの海老しんじょう揚げ、ゼンマイの天ぷらなどが美しく盛られていました。
若竹とヨモギのそばがきのお吸い物などはそば宿ならではのメニューですし、
サザエのつぼ焼きならぬ、つぼ揚げなどという斬新なメニューもこの宿ならではでしょう。
そして、こちらが十割そば。
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新生姜のそば《写真:野添ちかこ》
そばは月替わりで出しているそうで、今月は新生姜をすり込んだ変わりそばです。
もちろん、器は竹製。
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こちらも手作りの竹酒の徳利《写真:野添ちかこ》
さらには、竹酒の徳利にも太い青竹を使っています。
“竹仙人”を自称するオーナーが、借景となっている川の対岸の山から切り出して、作るそうです。
この日泊まったのは、特別室の「男爵の間」。
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男爵の間 《写真:野添ちかこ》
大倉男爵の居室をイメージした、明治時代の日本建築が再現された造りで、非常に広いお部屋です。
夕食、朝食ともに部屋食。日本旅館ならではの上げ膳据え膳で男爵気分が味わえるのもたまにはいいものです。
鶴井の宿 紫雲荘
- 神奈川県足柄下郡箱根町塔ノ沢92
- 全22室
- 1泊2食:1万9,590円〜(消費税・入湯税込)
- IN 15時/OUT 10時
- 日帰り入浴 可(大浴場2時間1人2000円、観山の湯1時間1人3000円、12〜18時予約制)
写真と文・野添ちかこ(温泉と宿のライター/旅行作家)