■checkポイント■
≫≫≫ 足元からぷくぷくと湧く足元湧出泉
≫≫≫ 40℃程度のぬる湯で長湯ざんまい
≫≫≫ 登録有形文化財に泊まって、入れる
≫≫≫ 与謝野晶子ゆかりの客室
オススメしたい方
【カップル、夫婦、グループ、おひとりさま】
「あの温泉に入りたい!!!」
雑誌やテレビ、ポスター、さらには映画のワンシーンから思い浮かべる温泉は数あれど、ここの風呂は格別でしょう。
群馬県・法師温泉の長寿館。
まず向かうべくは明治の趣を残す「法師乃湯」。
湯殿の佇まいはもはや芸術の域と言っていいかもしれません。仄かな明るさの行灯が湯殿を照らし、朝になると、アーチ型の窓から太陽光が差し込み、朝な夕な幻想的な湯浴みが楽しめます。
加えて、足元から湧くフレッシュな湯に浸かれるとあって、多くの温泉ファンを魅了してやまない憧れの湯です。
湯船は4つあって、手前が少し熱めで40℃ちょっと、奥の浴槽はぬるめで38℃程度。足元からぷくぷくと気泡が上がっているところは温かいお湯が湧いているので、同じ湯船の中でも微妙に温度が異なっています。
温泉の湧くその場所を探して、場所取りするのも楽しいものです。
ただし、ここは女性には非常に入りにくい混浴風呂です。
脱衣所こそ、男女別になっていますが、扉をガラリと開けた先の浴場は一つだけ。
湯船の脇に衝立が置かれていないから、周囲からは丸見えです。
近年は、全国的にも湯浴み着OKの混浴風呂が増えてきていますが、こちらはNG。
ワニ(※女性の裸を見るために湯船に張り付いている人のこと)がいるとかいないとか、苦情も多く聞かれるというので、女性は、余計入りづらい。
私がこの風呂に一番最初に入った20年ほど前には、男女の脱衣所は一つ限りでしたが、薄明かりの中、女性が入って行ってもあまり目立たない雰囲気で、混浴体験も異文化体験みたいで実に楽しかったと記憶しているけれど、残念ながら長寿館は、のどかに混浴するには、都会から近すぎる立地なのかもしれません。
私が訪れた時は、2019年(3年目)の女性専用デー(女性貸切日)の日でしたので、混浴風呂も時間を気にせず入り放題! でしたが、通常は女性は20〜22時の専用時間に入るのがいいでしょう。
あの与謝野鉄幹・晶子夫妻も泊まった!
建物は本館、別館、薫山荘、法隆殿の4棟があります。
本館は国の登録有形文化財に指定されていて、とても風情のある客室です。
多くの文人墨客が泊まっていて、「20番」のお部屋は、歌人として有名なあの与謝野鉄幹、晶子夫妻も泊まったそうです。
客室には、「この建物は明治8年築で、国登録有形文化財です。(略)与謝野鉄幹・晶子ご夫妻が、昭和6年9月4日から3泊されたお部屋です」と説明書きがありました。
レトロな雰囲気を体験したくて本館を指定するお客様も多いそうですが、
本館はトイレが客室内にはありません。トイレが不安な人は別館や法隆殿などの方が安心です。
今回、私が泊まったのは法隆殿の「やしおの間」。
洋風のテーブルや暖炉があるお部屋で、メゾネットタイプ(2階建て式)です。
なんと、スウェーデンのヴィクトリア皇太子が泊まった特別室だそうで、ここだけ他とは雰囲気が異なり、和洋折衷の立派な客室でした。ただし、布団は2階に敷かれていて、トイレや洗面所を使うときは1階まで降りてこなければいけないので、ちょっと面倒かもしれません。
山宿ならではの食がぎっしり
この日の夕食は、女性専用デーを意識したものだったと聞きましたが、女子度が高かったのはデザートが多めということだけで、基本は山宿の料理です。
先付はウドや菜の花の春の山菜2点盛り。
天ぷらはタラの芽やふきのとう、酢の物にはウルイやキクラゲ、なた豆の花など変わった食材が使われていて、ひと足早い春を感じることができました。
お造りにあった「山フグ磯辺巻き」の「山フグ」とはナマズのこと。これも山の宿らしい斬新なメニューですね。
さて、この宿は内観だけでなくて、外観の趣もため息が出るほど美しい。
ギシギシと音のする古い廊下を歩いて風呂や食事処に移動する途中にも、ついついノスタルジックな気分に浸ってしまいます。
長寿館
- 群馬県利根郡みなかみ町永井650
- 全33室(本館6室、別館10室、薫山荘6室、法隆殿11室)
- 1泊2食16,350円(消費税・入湯税込)〜
- IN 15時/OUT 10時30分
- 日帰り入浴 可(大人1000円、10時30分〜14時〈13時30分入館〉)
写真と文・野添ちかこ(温泉と宿のライター/旅行作家)