いく筋もの白い煙があちらからもこちらから立ち上る、不思議な景観。
湯治客は共同湯へと出かけ、自分でカットした食材を温泉の蒸気で蒸す。
そんな湯治場の原風景が残っている町が、別府・鉄輪温泉です。
鉄輪温泉というと、1泊3000〜4000円で安く泊まれる貸間旅館を思い浮かべますが、2014年オープンした「サリーガーデンの宿 湯治 柳屋」は湯治宿の風情を残しながらも洗練された空間のおしゃれな宿。大分でケーキ屋を営む女性オーナーが後継者のいない宿を引き継いだそうです。
別府に来たら共同湯めぐり!
この日は「1泊朝食付き」で予約をしたので、夕食は外で済ませ、いざ宿の周辺に点在する共同湯めぐりへ。浴衣に着替え、100円玉をもって、最初に向かったのは地獄原温泉。電気は付いていませんでしたが、私が入ったすぐ後に続けて地元の人がやってきました。
湯は熱いので、何度もかけ湯をします。
「あついね」。地元の親子がそう話しながらさし湯をしていたので、この日は地元民にとっても熱かったのでしょうか。少し濁った湯が冷えた体にガツンときます。
「別府温泉では、湯船の縁に腰掛けると怒られる」と入浴マナーを事前に聞いていたので、休むのは洗い場。それでも手持ち無沙汰になってすぐに浴室を後にしました。
お次は「渋の湯」。
防寒対策をしてきましたが、共同湯で温まった体にはコートは不要。浴衣だけで十分です。
先客は2名。ここは熱くありません。
湯船の奥に、高温の温泉が竹枝を伝って落ちるあいだに冷却される竹製温泉冷却装置「湯雨竹」が設置してあり、これで温度調節がされているようでした。
先客の一人は、神奈川から旦那さんの転勤で別府にやってきたそう。
「温泉のある生活は幸せ」だそうです。羨ましいですね。
21時になると、おじさんが清掃にくるので、21時前に出れば大丈夫。こちらは共同湯の中にトイレはないですが、外にあります。別府の共同湯は至れりつくせり。
十分に温まった体で宿へ戻り、仕上げは宿の内湯に。
大きくて黄色い晩白柚(ばんぺいゆ) が浮かんでいました。
「地獄蒸し」の朝食せいろ
朝は楽しみにしていた「地獄蒸し」です。
素泊まりの場合は、自分で食材を用意して、自炊室で調理し、地獄釜で食材を蒸します。
鉄輪温泉の宿には敷地内にそれぞれ、地獄釜を持つところが多く、街中には市営の地獄蒸し工房などもあります。
今回は宿が用意した朝食メニューです。
地獄蒸しで調理された朝食せいろは、日替わりで中身が和・洋・中にアレンジされています。
この日は中華。桜の葉で包んだおこわはカボチャ入りという凝りよう。
盛り付けが非常に綺麗です。
ハーフバイキングはカフェのような雰囲気で、とにかくおしゃれ。蒸した大豆や自家製ドレッシングのサラダ、ヨーグルト、ジュースなどヘルシーで現代湯治にふさわしい朝食メニューでした。
至福の蒸し湯体験
「昨日薬草がかえたばかりだから、きっと、ふかふかですよ」
お宿の人に聞いて、翌日は「鉄輪むし湯」へ。
入湯510円、浴衣がなければプラス210円。
湯船でお尻を流してから、浴衣を羽織り、むし風呂へ向かいました。
扉を開けるとむわっと、白い煙であまり前は見えません。
中腰で入る天井の低い小屋に、わらのような干した薬草(石菖=せきしょう)が敷き詰められてあって、頭の石にタオルを置いて、薬草の上に寝ます、
「早く寝転んだ方が楽よー」。
スタッフに声をかけられて慌てて仰向けに寝転びました。
熱い空気を大きく吸い込み、深呼吸をすると、毛穴という毛穴に熱気が押し寄せて、全身から汗が噴き出してきました。
こんなに汗をかくことなんて、めったにありません。
8分したら、タイマーが鳴って声がかかりました。
体についた薬草をゴザの上で払い、浴衣を脱いで浴室へ。さきほどは熱く感じたかけ湯が、ぬるま湯に感じるくらい、ホカホカと体が温まっていました。
体の中の余分なものがデトックスされたようで、爽快な気分。入る前よりも呼吸が楽になりました。
地獄で天国体験、してみませんか?
サリーガーデンの宿 湯治柳屋
- 大分県別府市鉄輪井田2組
- 全18室
- IN 14時/OUT 11時
- 1泊素泊まり5400円(消費税込・入湯税別)〜
- 日帰り入浴 不可
写真と文・野添ちかこ(温泉と宿のライター/旅行作家)