とっておきの本と戯れる一夜 〜箱根本箱〜
ハンモックでゆらゆらと揺れながら、お気に入りの本と戯れる。
BGMは小鳥のさえずり、料理は新感覚のイタリアン。
そんな贅沢な時間を過ごせる宿が2018年8月、箱根にオープンしました。
「箱根本箱」は今一番、ホットなブックホテルです。
出版流通を担う二大取次の一つ、日販(日本出版販売)の保養所だった施設をリニューアルし、新潟で「里山十帖」などを展開する株式会社自遊人が運営する異色の宿です。
本のディレクションは、日販によるBOOKディレクションを手掛けるブランド「YOURS BOOK STORE」が担当しています。
置かれている本のテーマは「衣・食・住・遊・休・知」の6ジャンル。
日本の手仕事や工芸、美術、料理、世界の建築デザイン、花、植物、小説から、人工知能、哲学、数学といったちょっと難しい内容の本まで、ありとあらゆるジャンルの本たちが、ラウンジ、客室、廊下の突き当たりなどに置かれています。
面白いのは、「あのひとの本箱」。
著名人が選んだ本がその理由とともに置かれているのは、ちょっと面白い趣向です。
私が泊まった客室には、横尾忠則さんが選んだ本が置かれていました。
恩田陸さんや山崎ナオコーラさん、石田衣良さんといった名だたる小説家や写真家・蜷川実花さんなどさまざまな分野で活躍する37名の著名人が協力し、「なぜこの本を選んだのか?」が書かれた小冊子まで読めるのだから、本好きな人でなくとも、興奮してしまいます。
客室でしばらく寛いだら、館内の探検に出かけましょう。
ラウンジにある本棚の中は入れるようになっていたり、廊下の突き当たりに隠し部屋が設けられていたり、二段ベッドのようなスペースに本が置かれていたり、ワクワクする空間づくりがされています。
「多くの人が本を買って帰られますね。多い人は10冊くらい買って帰られる方もいます」と支配人の窪田美穂さんが教えてくれましたが、1泊ではとても時間が足りません。
ひたすら本と戯れる一夜は、初めての経験。
たまたま目に飛び込んできた本が自分の人生に気づきを与えてくれるきっかけになる――そんな一冊との出合いがあったら嬉しいですね。
新感覚のイタリアン
料理は、長岡出身の佐々木祐治シェフが箱根を中心に地域の素材を吟味した新感覚のイタリアン。
アミューズから、輪切りにした木の幹がお皿になっていて、あっと驚かされました。
焼津産の活け〆の鰹は、鮮度を保つ神経締めで、ソースはエゴマ、エシャレットやバルサミコ酢、若摘みピーマンが添えられていて、血液サラサラになりそうなヘルシーな一皿。
伊豆の夏鹿ロースは、春の草花を食べて育った脂が少なめの鹿で、ビーツやルバーブのピューレと一緒にいただきます。
ワインは岡山、宮城、山形、長野、広島、富山など全国から選りすぐったワインのほか、フランスやイタリア、ニュージーランド産などが用意されています。
私は東京・清澄白河のワイナリーのものを選びました。
イタリアンとワインでとっておきの一夜を過ごせます。
2種類の源泉を一度に楽しめる
強羅温泉にある宿だからこそ、温泉の質もなかなかのものです。
2本の源泉が引かれていますが、一つはpH8.6、アルカリ性のナトリウム-塩化物泉。
もう一つは、大涌谷から引湯した仙石原の酸性-ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉。
白濁と透明の2色の温泉ですが、私が訪れたときは、露天風呂のにごり湯はそこまで濁ってはいませんでした。
脱衣所には、打ちっ放しのコンクリートの壁に、クラフト紙にコピーされた温泉分析書が掲げられていました。
こんなところにもこのホテルのセンスの良さを感じます。
チェックアウト時には、気に入った本や読みきれなかった本を購入することもできるんです。私が購入したのは「和の道具」と「絶景温泉」の本。
いつも気になるテーマは大体似たようなものですが、「Amazon検索」ではきっと購入まではしていなかった本。
一期一会の本との出合いが、人生に新しい風を起こすきっかけになるかもしれません。
箱根本箱
- 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
- 全18室
- IN 15時/OUT 11時
- 1泊2食18,321円(1室2名利用時、消費税・入湯税別)〜
- 日帰り入浴 不可