“日本最古の化石”とキャベジンの湯 〜山里のいおり草円〜
北アルプスの懐に抱かれた奥飛騨温泉郷は、明治・大正の頃からの湯治場ながら、モダンな印象も併せ持つ。このエリアには、郷愁を誘う古民家移築の宿がいくつもあります。
福地温泉は、“日本最古のオルドビス紀(古生代の2つ目に古い紀で、約5億〜約4億4000万年前)の化石が出た、地質学的にも貴重な場所で、標高1000mの高地でありながら、その昔は海底だったそうです。その証拠に、4億8000万年前の“日本最古の化石”が出土し、一の谷周辺は「化石の産地」として国の天然記念物にもなっています。福地温泉を歩けば、“化石を踏んで歩いているようなもの”という人もいるくらい。福地温泉に行ったら、ぜひとも「福地化石館」を訪ねてみてください。周辺で採集された化石が展示されていて見応えありますよ。
化石の出る温泉は、飲めば胃腸にいい湯だった
そんな豊富な化石を産出する地層から湧き出る温泉は、さまざまな成分が温泉水に溶けこみ、肌をつるつるにする美肌湯です。
「炭酸水素イオンが520.5r、メタケイ酸が176.9r/ℓ。1ℓ飲めば、キャベジン2錠とほぼ同じ成分が含まれている温泉です」とは宿のご主人のお話。
柄杓にすくって飲んでみると、飲みやすく、クセの少ない味。浴室前に飲泉場が設けられていますが、飲泉すると慢性消化器病や糖尿病、痛風に効果的なのだそうです。
化石のある所に湧く温泉は、石灰石層で、弱アルカリ性の炭酸水素塩泉が多いそうです。
使われている源泉は自家源泉2本と共同源泉1本の計3本で、男女別大浴場に注がれる「福の湯」は300mの地下からくみ上げる自家源泉で、タンクを通さずに注がれています。以前はナトリウム−炭酸水素塩泉でしたが、昨年の分析で少し成分が薄くなり単純温泉という泉質表示に変更になったそうです。
もう1本の自家源泉は、「ここから湯がでる」と先代であるお父さんが夢に出てきて、掘ったところ、駐車場から温泉が湧き出てきたのだそう。こちらの源泉は貸切風呂の「ぬる湯」に注がれています。
私が一番印象に残った浴槽は、川沿いの露天風呂「森の湯」のうち、平湯川の渓流が最も近い「岩湯」。春夏秋冬、訪れてみたい露天風呂です。こちらは夜20時までが女性風呂。右側にある「釜湯」も「岩湯」に負けず劣らずの絶景自慢の露天風呂。20時以降はこちらが女湯に替わります。
古民家移築の和めるお部屋でまったり
客室は新潟の豪農の屋敷を再生した「木庵」、持ち山にあった100年以上経た木材で建てた「草庵」、そして築180年以上を経た飛騨の古民家を移築した「煙香庵」は登録有形文化財にも登録されています。
玄関の囲炉裏、昔のタンスなど調度品が置かれた館内はよく手入れがされていて、とても居心地よく過ごせます。
ウエルカムスイーツ代わりに客室のこたつの上に置かれたお菓子は、1段目=ゴボウチップス、2段目=大学芋、3段目=羊羹ゼリーでした。ビックリ箱を開けるようなワクワク感に、思わず子どもに戻ったような気分に。こういう遊び心のあるおもてなし、大事ですね。
囲炉裏を前に飛騨の夜に酔う
お料理は囲炉裏を囲んで、そばの実や奥飛騨サーモン、岩魚、飛騨牛などの地場のものが供されます。小鉢に少しずつ盛られたお料理は女性客にはちょうどよい量でしょう。竈炊きのご飯は昔ながらの薪で炊いているので、ごはんの甘みが口の中にほっこりと広がります。
大浴場と露天風呂に行けば、十分に満足してしまいそうですが、道路を挟んだ反対側にある貸切風呂もお忘れなく。
内風呂にはぬるい源泉を引き込んだ35℃のぬる湯浴槽と、44℃のあつ湯浴槽、玉砂利の敷かれた寝湯があり、さらに扉を開けると、岩の露天風呂まで併設してあって、贅沢な空間が広がっていました。夜はぬる湯に入り熟睡モードに、朝はあつ湯を浴びて体のスイッチをオン! そして露天風呂の自然景観を楽しめる、なんともよくばりな温泉です。
山里のいおり 草円
- 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地温泉831番地
- 1泊2食17,800円(消費税・入湯税別)〜
- 全15室
- IN 15時/OUT 11時
- 日帰り入浴 不可