アート×古民家×料理が宿を変える 〜山形座瀧波〜
お餅つきのパフォーマンスが人気だった山形の老舗宿、「いきかえりの宿 瀧波」が2017年8月、全面リノベーションして「山形座 瀧波」として生まれ変わりました。
プロデュースしたのは、新潟県で『里山十帖』を経営する「自遊人」の岩佐十良氏。
100年宿がどんなふうに蘇ったのか、期待に胸を膨らませて、2月のある日、赤湯温泉へと車を走らせました。
分厚い雪がたっぷりと残る茅葺き門をくぐると、どっしりとした構えの玄関が見えてきます。そう、ここは古民家を移築した宿。玄関を入ってすぐ目に入るのは、北欧チェアの並ぶ モダンな空間でした。本館は築350年の上杉藩の大庄屋の曲がり家を移築したもので、チェックインとともに山形ならではの健康的なウエルカムドリンクが供されます。
古民家の宿というと、冬場は震えるほどに寒くて風呂への移動が辛いイメージがありますが、そこは古民家宿再生のプロフェッショナルが手掛けた宿なだけに、断熱材や防音材、ペ アガラスなど見えないところの工夫が徹底されていて、スリッパを履かなくても心地よく過ごせます。床暖房が入っているのかと思いましたが、床材は杉板を浮作り加工したもので 、含水率が低下し、冷たく感じないのだそうです。総工費5億円をかけた全館リノベーションですから、古い柱や梁はそのままに、スタイリッシュな空間で、居心地のよさが感じら れます。
客室は選べる3タイプ
この日に泊まったのは、白壁土蔵の完全離れ「KURA02」。
宿場町から移築した蔵座敷をリノベーションした「KURA」棟には全7室があり、それぞれ間取りは異なります。
今回宿泊したのは、2階にベッドルームのあるメゾネットタイプで、蔵王石をくりぬいた大きなお風呂付き。
このリニューアルに際して、切り出した蔵王石を新たに10個くり抜いて造ったそうで、各部屋に設えられた石風呂は大きさも形もバラバラ。部屋ごとに違った景色を眺めながらの湯 浴みができます。
改装にあたって、こだわったのは湯の「質」。
以前はタンクにためて給湯していたものを、源泉から直接引いて、かけ流しにすることで、空気に触れることなく、よりフレッシュな湯の質が実現したのだそうです。硫黄分を含み 、舐めると塩分も感じる源泉は、保温・保湿効果の高い泉質です。
男女別の大浴場も同じ泉質でかけ流しですが、露天風呂付き客室に宿泊すれば、大浴場に行かずとも十分に満足できます。源泉温度は41℃±0・5℃になるように調整されているそう です。
「KURA01」は、115uもある3間続きの特別室で、プライベート庭園を独占しています。落ち着いた和の空間ながら、アートな家具が配置されています。客室に置かれたベッドはどの 客室も、シモンズ社かシーリー社の高級ベッドが配置され、枕も硬めと柔らかめを選べますので、快眠効果はばっちりです。
「KURA03」にはフランシス・コッポラの愛した椅子「イームズラウンジチェア」があったり、「SAKURA」の棟には春になれば3本の桜が眺められたりと、季節を感じることもできま す。
「YAMAGATA」棟は大正時代の木造小学校の校舎を移築したもので、山形在住の作家さんの調度品を用い、天童木工のソファが設えられています。2階はヒノキのお風呂、廊下もお部 屋も畳敷きで、こちらも裸足で歩くのが気持ちいい。
壁は、自然素材で調湿効果の高い西洋漆喰が使われています。部屋には防水機能付きのポータブルテレビが置いてあるので、露天風呂にテレビを運ぶこともできます。
さて、夕食の前には、16時30分からロビーで「花笠踊り」、ダイニングで社長の南さんによる「そば打ち実演」が行われます。
「花笠踊り」といえば、東北四大まつりのうちの一つで、山形の夏の風物詩。「ヤッショ、マカショ!!」という威勢のいい掛け声とともに、スタッフがかわいらしいピンクの衣装 に着替えて、花笠踊りを披露してくれました。赤い花のついた笠は、山形の県花でもあり、染料として紅花をイメージしているんだとか。記念写真まで撮ってくれて、山形気分も盛 り上がります。
お次はそば打ち。
「そば粉はこちらの2つを5割5割でブレンドし、つなぎはゼロです」。
南社長自らがこの宿を引き継ぐときに独学でそば打ちの技術を習得し、そば打ちを披露しています。2色の色の異なるそば粉は、薄い方が「出羽かおり」、濃い方が「最上早生」。 目の前で打ったそばは、鰹とあご出汁のつゆとともに食事の最後に供されます。
畑で遊び、雪国の恵みを味わう
一番驚いたのは、料理です。
料理長や支配人がまるで演者のように調理し、提供する「劇場型」ともいうべきオープンキッチンでのサービスは、これまでの旅館の常識を打ち破る斬新な時間でした。
主役は県内産の野菜たち。しかも、無農薬有機栽培のオーガニック野菜をいただけるのはどこの宿でもできるわけではありません。醤油は本醸造、酢は本醸造のりんご酢。一切、添 加物が入っていない調味料を厳選しているそうで、美食だけれど、胃にもたれない工夫が随所に挟み込まれています。
たとえば、「大地の力」と名付けられた料理は、みずみずしい「雪の下大根」がお料理にふるまわれます。大根もちと大根のみぞれですが、驚くのはその味。大根の辛味が一切なく て、梨みたいにフルーティーなのです。なぜ甘くなるのかというと、雪の下で凍らないように、でんぷんを糖に変えるそうなのです。この「雪の下大根」は、泥付きのものを見せて くれました。お客様を連れて大根掘り体験に出かけることもあるそうです。
「マリアージュセレクション」を注文すれば、お皿に合わせて、日本酒を選んでくれます。例えば、山菜と有機野菜には、純米吟醸酒の「出羽桜 出羽燦々 誕生記念」のフルーテ ィーな華やかさが合いますし、苦みのある地野菜には「山形正宗」の純米吟醸など辛口のお酒を合わせてくれます。
置賜の塩引鮭は麹で3日間漬け、酒田沖でとれたのどぐろ、最上川に生息している蟹など旬の食材のオンパレードで、説明を聞くだけでも楽しい。もう、どれがメインと呼ぶべきか 分からないくらいです。「山野の香り」は米沢牛と雪ウルイとフジリンゴ。クロモジの葉っぱがハーブ代わりになって脂身なのにさっぱりといただけます。
そして窯炊きご飯は煮立ったら、お箸で穴にフタをしてできあがり。5年連続で星をとったコシヒカリ。「煮え花という一番美味しいところをどうぞ」と勧められるままに、ピカピ カのお米をいただきました。
芋煮汁も瀧波のオリジナル。
TVなどで見る芋煮汁はさといもとこんにゃく、ながねぎ、牛肉などが入った醤油仕立てのものですが、瀧波の芋煮汁はこの時期はローリエで香りづけした上品な醤油仕立て。中に は山形地鶏と生姜も入っています。庄内と宮城は豚、米沢は豆腐も入るなど地域による違いがあるそうです。
美食だけど、滋養たっぷりのお料理が心までも温かくしてくれて、大満足の一夜が更けていくのでした。
山形座 瀧波
- 山形県南陽市赤湯3005
- 1泊2食23,200円(消費税・入湯税別)〜
- 全19室(全室露天風呂付き、1階は蔵王石の大岩風呂、2階は総檜風呂)
- IN 15時/OUT 11時
- 日帰り入浴 不可