2つの湯口がある湯舟 ~緑屋吉右衛門(長野県)~

 
七久里の湯(七苦離の湯)と呼ばれ、平安時代の和歌集にその名が出てくる長野県の別所温泉。日本武尊(やまとたける)東征の折に発見されたとも伝えられ、日本最古の温泉の一つと言われています。

別所温泉には小さなお宿が多いですが、共同湯の大湯近くにある「緑屋吉右衛門」もまた規模が小さく、お風呂の造りはレトロな雰囲気で落ち着きます。玄関を入ると、中庭の緑が目に飛び込んできました。

田舎のおばあちゃんの家に帰ってきたような懐かしい感じがします ≪写真:野添ちかこ≫

田舎のおばあちゃんの家に帰ってきたような親しみを感じます ≪写真:野添ちかこ≫

緑屋はもともと、この辺一帯の庄屋さんだったそうで、1500年代にこの地に移り住んできてからは蚕を育て、絹糸を生産して輸出もしていた家で、遠くから来た人を泊めていたことから旅の宿となり、その後、温泉も掘ったとか。歴史は250年以上とされ、別所の中で最も古い宿なのだそうです。

なぜ、湯口が2つあるのか?

歴史のある宿であることを示す名残が宿の中にいくつか残っています。

一つが、「旅舎 美堂りや吉右衛門」と書かれた古い木の看板。江戸時代のものだそうです。

そして、もう一つが女湯(翌朝は男湯)の露天風呂。なぜか一つの湯舟に温泉を注ぐ湯口が二つある、変わった造りをしています。

湯口が2つある露天風呂。夏でも長湯できるくらいのぬる湯です ≪写真:野添ちかこ≫

湯口が2つある露天風呂。夏でも長湯できるほどの温度でした≪写真:野添ちかこ≫

宿の人に尋ねてみると、一つは別所の共同源泉で大湯と同じもの。もう一つの竹の湯口(写真右側)から出ている湯は38℃くらいのぬる湯で、この宿独自の源泉なんだとか。

浴槽を彩るのは、浅間山の溶岩とレトロな雰囲気のタイル。それから鬼瓦。オリジナリティ溢れる湯舟は、いまの時代にも決して色あせない存在感を放っていました。

別所温泉の共同源泉は非常に熱いですが、2本の源泉を注ぐ露天風呂は40℃くらいでしょうか。ゆったり長く入ることができました。

一方、内湯は夏の疲れた体に喝を入れるあつ湯です。梅雨明け前だったので、窓の外のアジサイがとてもきれいでした。

湯口に近い浴槽は42~43℃のあつ湯。遠い方は41~42℃で少し入りやすい ≪写真:野添ちかこ≫

湯口に近いひょうたん型(右の浴槽)は42~43℃で熱め。左側は41~42℃。いずれも源泉かけ流し≪写真:野添ちかこ≫

シャワーも源泉。建物と建物の隙間を生かした家族湯もあったり、和めます。

建物と建物の隙間を活用した家族湯 ≪写真:野添ちかこ≫

建物と建物の隙間を活用した家族湯 ≪写真:野添ちかこ≫

 鯉のしゃぶしゃぶはまずお刺身で

別所生まれ、別所育ちの料理長のお料理はとても印象に残るものでした。

なかでも佐久鯉を使った「鯉しゃぶ」は、温泉水を使ったしゃぶしゃぶで、ポン酢か酢味噌でいただきます。しゃぶしゃぶにする前に「お刺身として食べても美味しいですよ」と言われて、半信半疑で口にほうり込めば、確かに鯉の臭さはまったくなく、脂がのった美味しいお刺身でした。

さあ、まずは生で召し上がれ♪ ≪写真:野添ちかこ≫

さあ、まずは生で召し上がれ♪ ≪写真:野添ちかこ≫

土瓶蒸しは海老くわい蒸しとおぼろ帆立でいい出汁が出ています。

焼き物は上田名物の「美味ダレ(おいだれ)」を使った信州白鶏。甘辛のタレがポイントです。

台のものは夏でも、きのこ鍋。この地域では年間を通じてきのこが栽培されていて、きのこ鍋と雑炊が出されています。自家製の野沢菜、新生姜甘煮が食欲を促進してくれるので、ペロリと平らげてしまいました。

地鶏のみそだれ(右上)が美味≪写真:野添ちかこ≫

信州白鶏にかかった美味ダレ(おいだれ)は信州上田独特の食文化(右上) ≪写真:野添ちかこ≫

前菜からデザートまでバランスのよい品数と味付けは、この地の食材を知り尽くした30代の若い料理人ならではの会席の組み立て。スタッフのサービスと料理の味わいが滞在を楽しいものにしてくれます。

お土産に「七久里煮」を

翌朝、名物だという「七久里煮」を注文しました。宿には空箱しか置いてありませんでしたが、すぐ近くのお店(七久里煮製造元 みづほ)から、たった一個なのに、おばちゃんが届けてくれました。

フキ、ワラビ、桜エビ、芋がら、貝べり、かんぴょう、干ししいたけの7つの素材を醤油と水あめで甘辛く煮た「七久里煮」は「七苦離の郷」と呼ばれていた別所温泉の地名にちなんだ名物で、酒の肴やお茶受けにぴったり。防腐剤等が一切入っていない手作りで、やさしい味わいです。

日持ちするけれど、濃すぎない味 ≪写真:野添ちかこ≫

日持ちするけれど、濃すぎない味 ≪写真:野添ちかこ≫

別所温泉に行かれるときにはぜひ味わってみてくださいね。

 

緑屋吉右衛門

  • 長野県上田市別所温泉225
  • 全10室
  • IN 15時/OUT 10時
  • 1泊2食12,400円(消費税込・入湯税別)~
  • 日帰り入浴 可(1000円、11~15時〈不定休のため要問合せ〉)

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